【前編】「フィッシャーズと一緒に何かやりたかった」― YouTuberドラマ『彗星』が生まれたきっかけとは?

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今年3月から<UUUM>のYouTube公式チャンネルにて公開がスタートしたオリジナルショートドラマ『彗星 ~PROLOGUE~』。1話約6分/全4話というコンパクトな構成ながら、ぺけたん、ンダホ(Fischer’s)、瀬戸弘司、河西美希という人気YouTuberを主演に迎え、超本格的な青春ストーリーであっという間に数十万再生を記録し、今も多方面で話題を集めているYouTubeドラマだ。
この『彗星』の脚本、監督、撮影、そして音楽を制作したのは、同ドラマでキーマンとなるバンドマンを演じているHiROKiさん1人というから驚き! 実は<UUUM>の社員でもあるHiROKiさんは自ら『彗星』の企画を社内で立ち上げ、その豊富なスキルをフルに活かしてドラマ制作を開始。作品に必要なほぼすべての要素を自身でまかない、結果的にネット上における映像制作の新たな方向性を示したのだ。
そんなHiROKiさんに、『彗星』の制作秘話やYouTuberキャストたちの裏話、そして今後のビジョンなどをざっくばらんに語っていただいた。もしかしたら、今後はYouTubeドラマが主流になるかも!? ―『彗星』を立ち上げた、いちばん最初のきっかけは?

HiROKi:もともと「(映像作品を)やりたい」という部分が根底にあったんですが、YouTuberを起用しようと思ったことには理由というか、きっかけがあって。それは<UUUM>の別のチャンネルになるんですが、『ボンボンTV』という、講談社さんと一緒にやらせて頂いているチャンネルの一つの企画として、講談社さんのIPを使った実際にあるお話/漫画をドラマ化してみようよと。軽く“ドラマっぽくやってみよう”みたいな形の企画だったんですが、それを僕が撮らせて頂いてたんです。

やっぱりYouTuberさんなので演技は上手ではないんですが、これもYouTubeの良いところだなと自分は感じていて。なんか“素人さんが挑戦する”みたいな、そういうところに惹かれているので、もっと気合いを入れた本格的な、オリジナルのストーリーを制作していったら面白いものができるんじゃないかな? といった興味が、いちばん最初のところですね。
― 以前から映像制作の経験はあったんですか?

ハタチちょっと過ぎくらいに“助監督”というお仕事をちょっとだけやっていたことがあって。ショートドラマなんですが、<BeeTV>や<Lismo!>などの動画配信の走りというか、モバイルでドラマを観るっていう。

そのドラマ制作の現場に立ち会うことになり、もちろん助監督という仕事なので監督の補佐といいますか、カチンコを打ったりとか……技術的なところは全くやってなかったんですけど。その後、ニコニコ動画とかYouTubeとか、USTREAMがやっと流行り出して、個人が発信する文化が出てきたので「これは面白いな」と思って(発表の場を)変えてきました。 ― ご自身のそういった経験、キャリアが『彗星』に注ぎ込まれている?

そうですね。たびたび “YouTubeスペース”というスタジオで、僕企画のちょっとしたホラーやコメディなどのショートムービーを撮ってはいたものの、あくまで個人的というか、少人数で撮るスタンスのものが多くて。しっかり撮ったことがなかったので今回はガッツリ撮ってみようかなと。 ― ただ『彗星』は制作の8~9割をHiROKiさんがお一人で担当していますよね。あえて「1人でやろう」というスタンスで進めたんですか? 自分のチームのメンバーに、僕が「やりたい」と思うようなビジョンを持っている人がいないというか、正直「あまり伝わらないな」と。

もともと制作会社としてスタートしたわけでもなく、今やっと少しずつメンバーが集まってきたという感じで。ここにきて、ちゃんとしたものが作れるようになってきたかな? というところなので、まずは僕が考えているものを率先して動かして、それを手伝っていただいて作る……っていう形にしました。だから今回はかなり無茶をして、それでもいいから一旦やってみようっていう。 ― YouTuberが主演することで“素人っぽさ”が出るのが逆に良いとのことですが、『彗星』のキャスティングの基準とは? たくさんの方と(映像制作の)お仕事をさせていただいていますが、その中でも作品的に良かったものだったり、中には(演技を)少しかじっている方もいたので、「ぜひ一緒にやってくれませんか?」ということでお声がけしました。瀬戸弘司さんはもともと劇団の方ですし、みきぽん(河西美希)も演技の勉強をしていたということもあったので。
それプラス“フィッシャーズと一緒にやりたい”というのが僕の中にありました。この企画の前に一度、音楽も一緒に作らせていただいていて。「チャンピオンロード」という曲なんですが、それもなかなか好評だったので、「これを掛け合わせたら面白いものができるんじゃないか?」と。
― それぞれのキャラクター設定も全てHiROKiさんによるものだそうですが、実際の本人のキャラを反映させた部分などはありますか? 一番に考えたのは、それぞれのYouTuberのファンの皆さんが観た時に楽しんでもらえるキャラクターってどんなものだろう? というところですね。瀬戸さんだったら、普段から自分のチャンネルでコント的なこともやられているので、そこは活かそうとか。
逆に、ンダホくん(フィッシャーズ)はとても体が大きいんですが、ものすごく良い子なんですよね、優しくて。じゃあ「この子がヤンキーだったら?」とか、フィッシャーズのチャンネルではまず見られないようなキャラクターとか。観ていただいたときに一番面白く思ってもらえるキャラクターって何だろう? と思って決めていった感じですね。 ― 実際のキャラに寄せたものもあれば、間逆もあったと。では瀬戸さんには演技指導的な部分もそれほどなく、普段のテンションに近い? そうですね。でも「こうしてほしい」と言うと、すんなりやっていただけるので。 ― 撮影が進行する中で演技指導的なものもあったと思うんですが、撮影中で盛り上がった部分や、キツかったなという部分はありますか? NG集を観る限り、かなりテイクを重ねたシーンもあったようですが。 やっぱり……皆がセリフを忘れてるとか、そういったところはあります(笑)。何回やってみてもイマイチ(役に)入り込めないとか。そこでテイクを重ねることもあれば、「じゃあセリフを変えてみようか」ということもあり。どうしてもプロじゃないところは出てくるので、そういった面での苦戦はありましたね。あと、休憩の時にワッと盛り上がっちゃって、どのタイミングで「演技/撮影に戻ります!」と声をかけようかな……ってなっちゃったりとか(笑) ― いつもYouTuberさんたちが作っているのは、それぞれ素のキャラだからこそ盛り上がるコンテンツが多いですよね。それを、自身と違うキャラを演じて、かつ複数人で一緒にとなると、普段のコンテンツを作るのとは全く別の難しさが発生するのでは? 多くのスタッフに囲まれて撮影すること自体が、YouTuberにとってはある意味ストレスだと思うんです。普段、自宅などで目の前のカメラに向かって撮るのとは全く雰囲気が違いますし。だから、いかにストレスを与えないように撮っていこうか? と。
どうしても丸1日撮影になったりするので、絶対に“もたない”とは思っていたんです。なので適度な休憩が必要なんですが、どのタイミングで入れようかなとか。あとは……本番中に怒鳴ることはまず無いですが(笑)、次々と注文を出さないようにしたり、伝え方を考えることはすごくありました。 ― 演者さんそれぞれから“演技をする”“ドラマに出る”ということについて、率直な感想を伺ったりはしましたか?

みんな「トライできることがすごく楽しみ」と最初に言っていましたね。実際に「やってみて楽しかった」とも言っていただけましたし、やっぱり“(演技を)やってみたい”と思っている方は多いんです。 ただ、それを自身のチャンネルでやるか? と言うと、やっぱりカラーが違ったり、それぞれのチャンネルにマッチした動画を出していきたい、というところもあるので。そういった面で、最終的には良くも悪くもトライできる場にはなったのかなと。 ― 今後、多くのYouTuebrさんが演技に興味が出て、例えばフィッシャーズの2人が自ら積極的に演技方面に進んで……という可能性もありますよね。 そうですね、あると思います。 ― 演奏シーンやアクションシーンなど、カット割りやカメラワークにもかなり工夫を要したと思います。

そうですね、どうしても(ンダホくんの)優しいところが出てしまっているなとは思います、正直(笑)。でも、それはそれで面白いものになったかなと。映像作品をたくさん観てきた自分の経験を活かして、うまくカット割りを考えて。もちろん実際に演奏はしていないので、いかに弾いているように見せるか? ということで表情にクローズアップしたり。

やっぱりYouTubeにアップするものなので、基本的にはスマホで観られる方が多いというところで、引きのショットはなるべく少なくしようとか、寄らないと表情がわからない、とか。スマホのサイズだと、引きにしてしまうと(画が)小さすぎるんですよね。なので、寄る時は手元は映さないで表情に持っていくとか、そういったテレビとはちょっと違うアングルの工夫といいますか、スマホでの鑑賞を念頭に置いて制作しました。 ― 寄りの連続だったところから急にパッと引きのシーンが入ると逆に新鮮、という効果も感じました。

そうですね、本当にその状況を説明する時しか使わない、というくらいで。大体は寄りや近めのショットで作っています。 ― ドラマのオリジナル楽曲「彗星」と「ツバサ」もHiROKiさんが制作されています。音楽活動/作曲活動はどれくらい以前からやられていたんですか? 僕自身は、中学校から20歳になるまでずっとバンドマンだったので、その経験をフルに活かそうと。せっかく持っているものは活かさないと、と思っているので。20歳くらいから活動を映像のほうに切り替えたので、そこからは家で粛々とやっていた感じです。 ― いま振り返って、それぞれの作詞/作曲~曲作りの中で意識した部分や、苦労した部分などはありますか?

どちらかというと「自分がすごく作りたい」「これが俺の音楽だ」という風にぶつけたわけではなくて。一番観てもらえる視聴者層ってどこだろう? と考えた時に、やっぱりフィッシャーズのファンが一番多いんですよね。だから、その世代に刺さる音楽や、実際に今流行っているバンドを参考にしたりとか。

歌詞は、表現が難解すぎると届きにくいと思ったので、あえて分かりやすく。すぐに共感できるような歌詞というところで、そこはだいぶ考えました。

― どちらもやや抽象的ですが、ポジティブな雰囲気の歌詞はご自身から出てきたものというよりは、客観的な? 自分の感覚も含めてはいますが、若い世代の方が、その世代特有のもどかしい気持ちを乗せて解釈してもらえるように、というところを考えて作りました。

― HiROKiさんがやっていたバンドは、ジャンル的にはどんな方向性だったんですか? この2曲に当時の音楽性も活かされていますか? やっぱり僕の世代はメロコアとかですね。この2曲はもう少しJ-POP~J-ROCKに寄せました。 ― 今回の楽曲制作で、テイストとして意識したアーティストをお聞きしてもいいですか?

実は [Alexandros]とBUMP OF CHICKENを参考にしています。

― ものすごい人気バンドの要素を……。

そうですね(笑)。若い女性に人気があって、もちろん音楽性や、例えばドラミングなど参考にさせていただいている点はかなりあります。 ― 企画を立て、脚本を書いて監督もやり、音楽まで作った『彗星』の経験を活かし、動画制作にかぎらず今後さらなるコンテンツを展開していくビジョンはありますか? 今回もそうですが、(僕は)良くも悪くも、ものすごく多趣味な人間なんですよね。音楽をやったり、すごく映画が好きだったり、色んな趣味があるので、それを活かしたものを作れれば、とは思っています。

正直、自分の中で「音楽で日本一になれるか?」と考えると、なれる自信は無いんですよ。じゃあ、映像を作って「日本一の映像作家になれるか?」と考えても“俺は絶対になれる”という自信は無いんですよね(笑)。
ただ音楽の場合、すごく努力したら人が認めてくれるくらいのレベルには誰でもなれると思うんです、すごく頑張れば。それは映像にしても何にしても。でも、それぞれ頑張ってある程度のレベルに達した時に、そこから良いところを少しずつピックアップしていけば、完全にオリジナルのものができるんじゃないかなと考えていて。それで、今回みたいに1人の人間がドラマを作って音楽も作れば、すごく親和性の高いものが生まれるんじゃないかなということで、自分だからこそできる“ミックスされたコンテンツ”が作れればいいなと……。もちろん今も模索中ではあるんですが、それをより研ぎ澄ましていくというか、どんどん尖らせていくイメージですね。 ― ドラマ制作を全部1人でやる、という点では現時点で第一人者的に近いと思うのですが。

その“象徴”になれれば……。これからの時代って、個人的にはそういう人がどんどん増えてくると思っています。僕よりも少し前の世代で言えば、宮藤官九郎さんとかも自分で音楽もやっちゃうし、脚本もやるしっていう、すごくマルチな天才だと思っています。ただ、マルチな活動はできても“宮藤官九郎”にはなれない。

例えばYouTuberも、自分で企画を考えて、撮影して編集してっていう、1人で完結しているという意味では同じなんですが、そういったことが今後はどの分野に関しても主流になってきて、当たり前になると思います。変な言い方ですが“ジェネラリストのスペシャリスト(総合職の専門家)”みたいな……。そういうものが必要になってくるというか、そういう人がどんどん出てくる時代になるのかなとは思っています。その第一人者じゃないですけど、(そういった存在に)なれたらなとはすごく感じています。 ― 逆に、劇団や舞台などアナログな方向に進んで “演技を磨こう”みたいな考えはありますか?

もちろん演技の勉強もしたいと思っています。今までの僕の場合だと、本から学んだ知識しかないんですよ。こういうメソッドがあって……とか、演技の考え方とか、そういうのは学んでいるんですが、実際に肌では感じていないので。

最終的には、小さい頃からの夢の一つなんですが、映画監督になりたいです。映画で食べていくというわけではないですが、1本撮れれば……とは思っています。撮ることによってまた何かが見えてきて、その経験をもとに違うことをやって、どんどん色んなものを吸収していければと考えています。 HiROKiさんが『彗星』続編の制作を約束!? さらに次回作の構想も語ってくれました! 気になる内容はインタビュー後編でどうぞ♪ 後編は6/12(月)公開予定! 気になる後編はこちら!

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